VSCode（Visual Studio Code）の拡張機能として登場した「Cline」は、自然言語による指示を使ってコードの生成や編集、さらにはターミナルでのコマンド実行まで支援してくれる次世代型のAIコーディングアシスタントです。
実際のコーディング作業やデバッグプロセスを大幅に効率化し、開発者の生産性を高める多彩な機能が備わっています。
しかも、Clineはオープンソースとして公開されており、Apache-2.0ライセンスのもとで自由に利用できるのが特徴です。
ここでは、Clineの主な機能や基本的な使い方、インストール方法・設定方法などについて詳しく解説します。
AIやLLM（大規模言語モデル）によるコード自動化に興味がある方は、ぜひClineを導入してその効果を体感してみてください。
AIコーディングアシスタントClineとは？
ClineはVSCode用の拡張機能として開発されたAIコーディングアシスタントです。Anthropic社のClaude 3.5-Sonnetなどの高度なLLMを内部的に活用しながら、ユーザーと自然言語で対話し、以下のような多彩な開発タスクを自動化・サポートします。
- ソースコードの生成・編集
- バグ修正やコードリファクタリング
- ターミナルコマンドの実行
- ヘッドレスブラウザによるUIテストやデバッグ
- 画像のアップロードと解析による支援
- 複数AIモデル（OpenAI、Anthropic、Googleなど）の切り替え
Clineが特徴的なのは、単にAIが勝手にコードを書くだけではなく、処理のステップごとにユーザーの確認をはさむ「人間の指示を挟んだ自律エージェント」として動作する点です。
大きく影響のある操作（例えばパッケージのインストールや外部コマンドの実行など）の前には、必ずユーザーに許可を求めるフローが存在します。
そのため、セキュリティ面やプロジェクト品質の観点でも安心して利用できるのです。
Clineの主な機能
Clineは一言では語り尽くせないほど多くの機能を搭載しており、単なるコードジェネレータの枠を超えています。以下に、代表的な機能を詳しく紹介します。
1. 自然言語での対話
Clineを使えば、VSCodeのエディタ画面内でチャットのような対話形式による操作が可能です。
「この関数にバグがあるから直してほしい」「Reactの新しいコンポーネントを追加したい」「このSQLクエリを最適化したい」といった自然言語での指示を入力すれば、Clineが関連するコードやファイルを読み込み、必要な修正や生成を提案してくれます。
開発者は人間に話しかける感覚で依頼を投げかけられるので、煩雑な操作コマンドを都度覚えたりする負担がぐっと減るでしょう。
2. コードの自動生成・編集
Clineはプロジェクト内のファイルに直接アクセスし、新規ファイルの追加や既存コードの編集を行えます。
「このクラスをもう少し読みやすくリファクタリングして」「このエラーハンドリング部分を加えておいて」などと指示するだけで、差分（diff）を提示した上で変更を進めてくれます。
さらに、必要に応じて自動的にインポートを追加したり、構文エラーを修正したり、パッケージをインストールしたりといった作業もサポートしてくれます。
もちろん、提案された変更はユーザーがレビューした後に適用できるため、誤った変更がプロジェクトに混入するリスクを最小限にとどめられます。
3. ターミナルコマンドの実行
VSCodeにはターミナルが統合されており、そこからさまざまなビルドやテスト、サーバーの起動コマンドなどを打つことが多いでしょう。
Clineはこのターミナルを通じて自動でコマンドを実行する機能を提供します。
「テストを実行して」「サーバーを立ち上げてみて」「npm installでライブラリを入れてほしい」などの指示が可能です。
ただし、システム全体に影響を及ぼすようなコマンドを打つ際には事前にユーザーの許可を求める仕組みがあるため、不意のミスやセキュリティリスクを抑えることができます。
4. ブラウザ操作の自動化
Web開発のデバッグやUIテストのために、ヘッドレスブラウザを操作する機能もClineには備わっています。
「ページを開いてログインフォームにユーザー名を入力して、送信ボタンをクリックしてほしい」「ページをスクロールして特定の要素が表示されているかチェックして」など、人間がブラウザを操作する動作をClineが代行できます。
これにより、UIの不具合を自動で検知したり、実行時エラーを発見しやすくなったりと、フロントエンド開発・テストの大きな助けとなるでしょう。
5. 画像の活用
Clineではチャット画面に画像ファイルを添付し、その内容をもとにコード生成やデバッグを行うことも可能です。
たとえば、UIモックアップの画像をアップロードして、「この画面レイアウトをReactコンポーネントとして実装してほしい」と指示することで、Clineがモックアップ画像を解析し、HTML・CSS・JSXなどを自動で生成してくれます。
また、バグが発生しているページのスクリーンショットを提示し、「この部分にバグがあるから原因を探して」と依頼することで、効率よく不具合の特定をサポートしてくれます。
6. 複数AIモデルのサポート
ClineはOpenAI（GPT-4など）やAnthropic（Claude 3.5-Sonnetなど）、Google（Gemini 2.0 Flashなど）といった複数のAIプロバイダーに対応しています。
さらに、OpenRouterというサービスを経由して複数モデルを切り替えられるため、用途やコスト、性能要件に合わせて最適なモデルを選択することが可能です。
もし予算の都合で比較的安価なモデルを使いたければ「DeepSeek Chat」などの低コストモデルを選ぶこともできますし、無料で試したいなら「Gemini 2.0 Flash」のようなモデルを利用してみるのも良いでしょう。
独自にホスティングしているローカルモデル（LM StudioやOllamaなどを利用）を組み合わせることも視野に入るため、柔軟なAI活用ができるのが大きな魅力です。
7. カスタムモード・ツールの拡張
Clineはカスタムモードやツール拡張（MCP：Model Context Protocol）によって、さらに発展的な使い方ができます。
カスタムモードとして、たとえば「QAエンジニア」「プロジェクトマネージャー」のような人格をClineに与え、異なる観点でのテストやスケジュール管理などを支援させることも可能です。
また、MCPを利用して独自のプラグイン（MCPサーバー）を追加することで、外部のウェブサービスやデータベースと直接やりとりさせる機能も拡張できます。
Cline自身がAIエージェントとして役割を切り替え、状況に応じたタスクを自律的に実行してくれるので、大規模プロジェクトでもチーム全体が効率良く連携できるでしょう。
Clineの使い方
Clineを実際に利用する際の基本的なフローについて解説します。
1. タスクの開始
まずはCline拡張機能をインストール・有効化したVSCodeで、サイドバーにあるClineのアイコンをクリック、もしくはコマンドパレット（Ctrl + Shift + P など）でCline: Open In New Tab と入力してパネルを開きます。
すると、チャット形式の画面が表示されるので、自然言語で依頼内容を入力し、タスクを開始します。
例えば「ReactのHeaderコンポーネントを新規に作成してほしい」と入力すれば、Clineが手順を確認しながらコードを生成してくれます。
2. コンテキストの提供
より具体的な作業を頼みたい場合は、追加でコンテキスト情報をClineに与えます。
チャット内で@file:src/components/App.tsxのような@記法を用いると、そのファイルを参照しながら変更や提案をしてくれます。
また、プロジェクト全体にまたがる変更を依頼する場合は「目的・現状・具体的な依頼内容」をまとめて説明すると効果的です。
例えば「このプロジェクトはNext.jsで作られている。いまログイン機能を拡張したい。現状はOAuth2認証にバグがあり、エラーメッセージが正しく表示されない。これを直してほしい。」というように伝えれば、Clineが関連するコードを読み込みながら提案を行います。
3. 変更内容のレビューと実行
Clineがコード修正やファイル追加を提案したとき、実際に適用する前に差分（diff）を表示してくれます。
ユーザーはVSCode上の差分ビューで、提案された変更を細かく確認でき、承認か修正要望かを選べる仕組みです。
この一連のフロー（指示 → 提案 → 確認 → 実行）を繰り返すことで、常にユーザーのコントロール下で安全かつ正確なコード修正が行われます。
ターミナルコマンドの実行でも同様に、特に影響の大きいコマンドの場合は事前の許可を求めるポップアップが表示されるため、意図しない操作を防ぎやすくなっています。
このように、Clineとの共同作業はチャット形式で進むため、従来のように一度に大量のコマンドやファイルを自分で操作する必要が少なくなります。
ちょっとしたバグ修正やリファクタリングでも、Clineに相談しながら行うことで、問題発見から修正までの時間を大幅に短縮できるでしょう。
インストール方法
Clineの導入は、VSCodeの拡張機能マーケットプレイスから簡単に行えます。以下に手順を示します。
- VSCodeを起動し、サイドバーの「Extensions（拡張機能）」アイコンをクリックします。
- 検索バーに「Cline」と入力し、表示された拡張機能「Cline」を選択して「インストール」をクリックします。
- インストールが完了すると、VSCode左側のアクティビティバーにClineのアイコンが追加されます。
これをクリックするか、コマンドパレットでCline: Open In New Tabコマンドを実行し、Clineを起動します。 - 初回起動時にはAPIキーの入力を求められるので、後述する方法でキーを設定し、AIサービスへのアクセスを有効化してください。
以上でインストールは完了です。Clineの拡張機能自体は無料で利用でき、Visual Studio Marketplace上では既に50万を超えるダウンロード実績があります。
設定方法
Clineを使い始める前に、AIモデルへの接続に必要なAPIキーの設定や、カスタムインストラクション、プロジェクト固有ルールなどを整えておくとスムーズに活用できます。
APIキーの設定
Clineは内部で外部のLLMを呼び出すためのAPIキーが必要です。
代表的な例としてはOpenAIのキーやAnthropicのキー、あるいは複数のモデルを統合管理できるOpenRouterのAPIキーなどがあります。
利用したいモデル（Claude, GPT, Gemini, DeepSeek Chatなど）が決まっている場合、それぞれのサービスから取得したキーを用意してください。
その後、Clineパネルの設定画面（歯車アイコン）でAPIキーの欄に取得したキーをペーストし、利用モデルやプロバイダを選択するだけで準備完了です。
カスタムインストラクション
Clineには「カスタムインストラクション（Custom Instructions）」を設定する機能があります。
これは「どんな会話やコマンドにも常に適用される追加プロンプト」のような役割を果たし、コーディング規約・コミットメッセージの形式・コメントの言語や書き方など、開発者の好みに合わせたルールをあらかじめ定義しておくことができます。
VSCodeの拡張機能設定でClineの項目を開き、Custom Instructions欄に記述した内容は、以後Clineが出力や提案を行う際に常に考慮されるようになります。
たとえば、「型注釈は必ずつける」「JSDoc形式でコメントを入れる」 などの要望を書いておけば、Clineが自動生成するコードに反映されるので、開発スタイルの統一やレビューコストの削減につながります。
プロジェクト固有のルール（.clinerules）
もしプロジェクトごとに異なるルールを適用したい場合は、リポジトリのルートディレクトリに.clinerulesというファイルを作成するのがおすすめです。
このファイルには「テストコードは必ず書く」「コンポーネント名はPascalCaseで統一する」のようなガイドラインを自由に書き込むことができます。
Clineはプロジェクトをロードした際、この.clinerulesファイルの内容を追加のインストラクションとして読み込み、コード生成や提案に反映してくれます。
複数のプロジェクトを並行して扱うときにも、各プロジェクトのルートにそれぞれルールファイルを置くだけで、切り替えの手間なく運用可能です。
公式ドキュメントとGitHubリポジトリ
ClineはオープンソースとしてGitHub上（cline/cline）にソースコードが公開されており、27kを超えるスターを獲得するなど、活発な開発とユーザーコミュニティの支援が行われています。
また、公式サイトのドキュメント（docs.cline.bot）にはさまざまなガイドやチュートリアルが用意されており、以下のような内容をより詳しく学ぶことが可能です。
- プロンプトエンジニアリングガイド（最適な依頼文を書くコツなど）
- ツール活用方法（ブラウザ操作やターミナル操作の高度な使用例）
- MCPプラグインの自作方法（Clineの機能拡張）
不具合報告や新機能リクエストはGitHubのIssueやDiscussionsで受け付けているため、利用中に問題が発生したら積極的にフィードバックしてみましょう。
公式DiscordやReddit（r/cline）コミュニティでもユーザー同士の交流やノウハウの共有が進んでおり、分からないことがあれば質問を投げかけることで、より効率的に問題解決ができるはずです。
まとめ：Clineを導入して開発の生産性を高めよう
VSCodeの拡張機能「Cline」は、自然言語で指示を出すだけでコードの生成・編集やテストの実行、ブラウザ操作などを自動化してくれる強力なAIコーディングアシスタントです。
Anthropic社のClaudeをはじめとする高度なLLMエンジンを活用しながらも、ユーザーの許可を都度確認する仕組みによって安全性とコントロール性を両立しています。
インストールや初期設定も簡単で、APIキーの設定やカスタムインストラクション、.clinerulesファイルによるプロジェクト固有ルールの適用など、開発現場のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズ可能です。
もし「コードレビューやバグ修正に時間を取られすぎている」「フロントエンドのUIテストを自動化して効率化したい」「複数のAIモデルを使い分けてプロジェクトを進めたい」などの課題があるなら、Clineはきっと大きな助けとなるはずです。
新しい開発体験をもたらすClineをぜひ導入し、日々のプログラミング業務を高速化・高度化してみてください。
AIアシスタントと人間の協働による生産性向上は、今後ますますスタンダードになるでしょう。
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