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AWS VS Azure

クラウドコンピューティングの世界で代表的なプラットフォームとして挙げられるのが、Amazon Web Services(以下、AWS)とMicrosoft Azure(以下、Azure)です。近年、企業のデジタルトランスフォーメーションが急速に進む中で、これらのクラウドサービスを活用したインフラ構築やシステム運用は、ビジネスの基盤を支える上で欠かせない選択肢となりました。両者ともに強力な機能を持ち、多様なサービスを提供しているため、「AWSとAzureのどちらを採用するべきか」という問いは多くの企業や開発者が直面する悩みの一つです。

本記事では、AWSとAzureの特徴やメリット・デメリット、料金体系、利用事例や運用面でのポイントなどを幅広くご紹介し、それぞれを比較検討する上での参考となる情報を提供します。クラウド活用を検討している方や、すでにどちらかを利用しているものの今後の拡張や移行を考えている方にも役立つ内容となるよう、さまざまな観点から両者を比較していきます。ぜひ最後までお読みいただき、組織にとってベストな選択肢を見つけてください。

目次

AWSとAzureの概要

AWSは、Amazonが提供する世界最大級のクラウドプラットフォームです。2006年にAmazon Simple Storage Service(S3)をはじめとしてサービス提供を開始し、クラウドサービスの先駆け的存在として多くの企業や開発者に採用されてきました。現在では、コンピューティング、ストレージ、データベース、人工知能(AI)、機械学習(ML)、IoT、セキュリティなど、多岐にわたるサービスを数百種類以上も提供しています。その豊富なサービスラインナップとグローバル規模のインフラは高い評価を得ており、スタートアップから大企業まで幅広く利用されているのが特徴です。

一方、Azureはマイクロソフトが提供するクラウドプラットフォームです。2010年頃より商用サービスとして本格的にスタートし、Windows ServerやSQL Server、Office 365、Dynamics 365など、マイクロソフト製品との高い親和性を武器に一気にシェアを拡大してきました。もちろん、オープンソース技術への対応も進んでおり、Linuxベースのワークロードや各種プログラミング言語、データベースとも柔軟に連携可能です。Windows環境を主軸とする企業はもちろん、マルチクラウド戦略をとる企業にとっても魅力的な選択肢といえます。

クラウドプラットフォーム選択の大きな要素としては、以下のような点が挙げられます。

  • 提供されるサービスの豊富さや質
  • 料金体系やコスト最適化のしやすさ
  • セキュリティやコンプライアンス対応
  • 開発・運用の容易さやサポート体制
  • データセンターのロケーションやリージョン数
  • 既存システムやツールとの親和性

これらをふまえた上で、自社のビジネス規模や要件に合わせてクラウドサービスを選ぶことが重要です。次のセクションから、より具体的にAWSとAzureの比較ポイントを掘り下げていきましょう。

料金体系とコスト最適化の比較

クラウドサービスを選択する上で、最初に気になるのが「コスト」です。AWSもAzureも従量課金モデルを採用しており、必要なリソースを使った分だけ支払う方式が基本です。しかし、実際には細かなサービス仕様や割引プログラムが多岐にわたるため、単純にどちらが安い・高いという結論を出すのは難しいのが現状です。

AWSの場合、代表的な料金モデルとして「オンデマンドインスタンス」「リザーブドインスタンス(RI)」「Savings Plans」「スポットインスタンス」などが用意されています。オンデマンドインスタンスは利用した時間に応じて支払う最も柔軟なモデルですが、コストは高めです。一方のリザーブドインスタンスSavings Plansは、長期利用を約束する代わりに大幅な割引を受けられるのがメリットです。スポットインスタンスはAWSの未使用キャパシティを活用するため、非常に安い料金でコンピューティングリソースを利用できますが、需要によってはインスタンスが終了されるリスクがあります。

Azureにも同様に、オンデマンド料金、予約インスタンスの割引、スポットインスタンスなどが用意されており、形態としてはAWSとよく似ています。Azure特有の強みとして挙げられるのが、既存のMicrosoftライセンスとの併用による割引です。Windows ServerやSQL Serverのライセンスを持っている場合、Azure Hybrid Benefitを活用してAzure上での利用料金を割安にできるため、マイクロソフト製品を中心とする環境ではコストの最適化がしやすいというメリットがあります。

両プラットフォームともに、利用料金を最適化するための各種ツールや分析機能を提供しています。AWSではAWS Cost ExplorerやAWS Budgets、AzureではAzure Cost Management + Billingなどが代表例です。これらを活用してコストをモニタリングし、リソースの無駄を把握・削減することが重要です。運用初期からしっかりコスト管理を意識しておかないと、思わぬ請求に悩まされることになるため注意が必要です。

料金の最終的な高低は、利用するサービスの種類や構成、契約ボリュームなどによって大きく変動します。そのため、トライアル期間やPoC(概念実証)などを通して実際のリソース消費量や費用感を把握し、自社のユースケースに最適化した形での導入を検討するのがベストでしょう。

サービスの豊富さと拡張性

次に注目したいのが、両プラットフォームが提供するサービスの豊富さです。AWSとAzureはどちらも多彩なクラウドサービスを展開しており、コンピューティング(仮想サーバー、コンテナ、サーバーレス)、ストレージ(オブジェクトストレージ、ブロックストレージ、ファイルストレージ)、データベース(リレーショナル、NoSQL、分散型)、ネットワーク(負荷分散、VPN、CDN)など、幅広い分野をカバーしています。

AWSは、2006年にローンチして以来、常に新しいサービスを追加・強化し続けてきたという強みがあります。EC2やS3のような基盤的なサービスから、Lambda(サーバーレスコンピューティング)、Fargate(コンテナ運用のサーバーレス化)、Aurora(高性能リレーショナルデータベース)、Redshift(データウェアハウス)、SageMaker(機械学習プラットフォーム)など、業界をリードするサービスを数多く保有しています。また、IoTやAI/ML、ビッグデータ解析などの先端領域においても、競合他社をリードする形でサービスを充実させている点が注目されます。

Azureも同様に、非常に多様なサービスを提供しており、Azure Virtual Machines(仮想マシン)、Azure Kubernetes Service(AKS)、Azure Functions(サーバーレス)、Azure Cosmos DB(グローバル分散NoSQLデータベース)、Azure Synapse Analytics(データウェアハウスとビッグデータ解析の統合基盤)などが代表的です。また、Microsoft製品との親和性が高いという特性から、Azure Active Directory(ID管理と認証)、Office 365やDynamics 365との連携、Visual StudioやGitHubとの強力な統合など、エンタープライズ企業がWindowsベースで構築してきた環境をシームレスにクラウドへ移行しやすいのも大きなメリットです。

一般的に、AWSとAzureのサービス数に大きな差はなくなってきており、どちらでも主要な用途をほぼカバーできます。細かい機能の差分や運用のしやすさはサービスごとに異なるため、具体的に実装・運用するサービスの選定時には、ドキュメントを確認したり実際にテスト環境で試したりするプロセスが不可欠です。たとえば、AWS LambdaとAzure Functionsの使い勝手、料金計算ロジックの違い、ログやモニタリングの集約方法など、細部で利便性や制約が異なるケースは多々あります。

また、多様なサービスをスピーディーに活用できる一方で、あまりに機能が多すぎるため、利用者側が理解しきれずに運用が煩雑化するリスクも存在します。AWSもAzureも定期的に新サービスを追加・更新しているため、常に最新情報を追いかける必要がありますが、チームのスキルセットやサービス導入にかけられるリソースを考慮した上で必要な機能を選択することが重要です。

グローバルインフラとリージョン展開

大規模なクラウドサービスを利用する上では、データセンターがどの地域に存在するか、どの程度の耐障害性や可用性を提供しているかといった点も重要な検討要素になります。AWSとAzureの両者はグローバルに多数のリージョンとアベイラビリティゾーン(AZ)を展開しており、世界中で高い可用性を確保できるよう設計されています。

AWSは30以上のリージョンと90を超えるアベイラビリティゾーンを運用し、追加リージョンの計画も随時発表しています。日本国内では東京リージョンと大阪リージョンを稼働させており、障害対策やレイテンシの低減を目的とした構成も取りやすくなっています。大規模な災害リスクへの対策として、リージョンをまたいだバックアップやDR(ディザスタリカバリ)構成を組むことが一般的です。

Azureも同様に、60以上のリージョンを世界中で展開しており、アベイラビリティゾーンを活用することで高い耐障害性を実現する設計が可能です。日本においては東日本(東京)と西日本(大阪)にデータセンターが設置されており、システムの冗長化が容易になります。さらに、マイクロソフトの大規模ネットワークを活用することで、Office 365やDynamics 365など他のMicrosoft製品との連携や通信が最適化されやすいという利点もあります。

基本的に、グローバル展開やリージョンの数で見るとAWSとAzureの差は以前ほど大きくありません。利用者としては、ターゲットとするユーザーの地域やデータガバナンス、法令順守の要件(GDPR、個人情報保護法、各国の規制など)に応じて、どのリージョンを利用するべきかを検討する必要があります。特に金融機関や公共機関など、厳格なコンプライアンス基準を求められる業界では、対応リージョンが限られる場合があるため、AWSかAzureかを選ぶ際に重要な判断材料となります。

セキュリティとコンプライアンス対応

クラウドを導入する上で、セキュリティやコンプライアンスへの対応は欠かせない重要事項です。AWS、Azureともに業界標準の認証やコンプライアンス規格に対応しており、ISO 27001、SOC 1/2/3、PCI DSS、HIPAAといった主要な規格をはじめ、各国のデータ保護法令にも幅広く準拠しています。

AWSでは、AWS Identity and Access Management(IAM)をはじめとするセキュリティサービスが充実しています。AWS Organizationsを利用すれば複数アカウントの一元管理が可能で、CloudTrailによる監査ログの収集、GuardDutyやSecurity Hubによる脅威検知など、包括的なセキュリティ管理の仕組みが揃っています。また、ネットワークレベルのセキュリティを確保するためにVPC(Virtual Private Cloud)や各種ファイアウォール、WAF(Web Application Firewall)を活用できます。

AzureでもAzure Active Directoryを基盤としたアクセス管理を行い、Azure PolicyやAzure Security Centerなどのサービスを通じてコンプライアンスとセキュリティの監視を行えます。マイクロソフトの大規模な脅威インテリジェンスを活用したAdvanced Threat Protection(ATP)製品群との連携も強力です。Office 365やオンプレミスのWindows Server環境ともシームレスにつながるため、既存のセキュリティポリシーを活かしたクラウド移行が実施しやすいというメリットがあります。

また、両社はクラウド上でのセキュリティの責任分担モデル(Shared Responsibility Model)を定義しており、クラウド事業者側がインフラのセキュリティを担保する一方で、利用者側がOSやアプリケーションレベルのセキュリティを確保する必要がある点に留意が必要です。たとえば、AWSやAzureが提供するマネージドサービスを利用すれば事業者側が大部分を管理してくれますが、アクセス権限設定やアプリケーションの脆弱性対応などは利用者の責任領域となります。セキュリティを強化するためには、クラウド側の仕組みを正しく使いこなし、利用者側の運用も最適化することが不可欠です。

運用・管理のしやすさ

AWSとAzureはどちらも多くの管理ツールやダッシュボードを提供しており、運用管理の自動化を支援する機能が充実しています。ただし、その使い勝手は企業のエンジニアが持つ経験やスキル、既存のシステム環境、習熟度などによって評価が分かれることも多いです。

AWSでは、AWS Management Console、AWS CLI、CloudFormation、AWS CDKなど、UI/CLI/コードベースのさまざまな運用管理手段が用意されています。スタートアップやDevOps文化の強い企業ではインフラをコードで管理し、継続的デリバリーのパイプラインに組み込むケースが一般的です。一度仕組みを作り上げれば、新しいサービスの導入やバージョンアップもスムーズに行えるというメリットがあります。また、TerraformやAnsibleなどのサードパーティ製ツールとの相性も良く、オープンソースのコミュニティも活発です。

AzureでもAzure Portal、Azure CLI、Azure Resource Manager(ARM)テンプレート、Bicep、Terraformなどを用いたインフラ構築が可能です。Visual Studio Codeとの連携やGitHub ActionsでのCI/CDパイプラインも比較的構築しやすく、開発者にとって馴染み深いMicrosoftエコシステムを最大限活かせる点が特徴です。Windowsや. NETを中心に開発しているチームにとっては、Azureのツール群が非常に使いやすいと感じる場合も多いでしょう。逆に、Linuxベースやオープンソース技術に馴染みがある場合でも、現在のAzureはサポートが充実しているため、過去に比べて大きなデメリットは感じにくくなっています。

運用管理の観点では、コスト管理に続いてログ管理や監視も大きな課題となります。AWSではAmazon CloudWatchやAWS X-Ray、AzureではAzure MonitorやApplication Insightsなどを活用し、システムの稼働状況を可視化すると同時に、障害発生時にアラートを発砲させる仕組みを構築します。これらのツールを適切に使いこなすことで、障害の早期発見と復旧対応の迅速化を図ることが可能です。

なお、マルチクラウド環境を採用する企業が増えている現状では、AWSとAzureの両方を併用し、それぞれの強みを活かすケースも増えています。このような運用形態では、各クラウドベンダーの管理ツールに加えてサードパーティ製の統合管理ツール(DatadogやNew Relic、Zabbixなど)を利用することで、サービスごとに異なる管理コンソールをまたがなくても一元的な監視・運用ができるようにする工夫が求められます。

ユースケースごとに見たAWSとAzureの特徴

AWSとAzureの優位性は、具体的なユースケースによって異なる場合が多くあります。以下にいくつか代表的なユースケースを挙げ、それぞれどちらが有利になりやすいかの傾向を述べます。

Windowsベースのオンプレミス環境をクラウドに移行したいケース

既存システムがWindows ServerやActive Directoryなどを中心に構築されている場合、Azureが有利になる傾向があります。Azure Hybrid Benefitを使うことでライセンスコストを抑えられるほか、オンプレミスで使っていたWindows環境の移行がスムーズに行えるため、Azureが選ばれやすいです。また、マイクロソフト製品のサポート窓口が一元化しやすい点も大きなメリットです。

Linuxベースのスタートアップや開発環境をスケーラブルに運用したいケース

AWSは、Linuxとの親和性が非常に高く、DockerやKubernetesなどのコンテナ技術を早期からサポートしてきました。Elastic BeanstalkやFargateなど、アプリケーションを簡単にデプロイするサービスが充実しているため、小規模から始めてトラフィック急増時でも柔軟に拡張していきたいスタートアップにはAWSが選ばれるケースが多くあります。

AIや機械学習を中心とするプロジェクト

AWSにはAmazon SageMakerという強力な機械学習プラットフォームがあり、モデルの開発・学習・デプロイを一貫してサポートします。AzureにもAzure Machine Learningがあり、似たような機能セットを提供しています。マイクロソフトのAIリサーチ部門が提供する各種API(Computer Vision、Text Analytics、Speechなど)を活用できるAzure Cognitive Servicesも人気です。AI/ML分野では、特定のアルゴリズムやフレームワーク、開発者の嗜好によってどちらを優先的に使うかが決まる傾向があります。AWSのエコシステムの方がドキュメントや事例が豊富な印象がありますが、AzureのCognitive Servicesは簡単にAI機能を取り入れられる点で高評価です。

ハイブリッドクラウドやマルチクラウド戦略

大企業や金融機関、公共機関などでは、オンプレミス環境を維持したまま一部システムをクラウドに移行する「ハイブリッドクラウド」戦略や、クラウドリスク分散のために複数クラウドベンダーを併用する「マルチクラウド」戦略を取るケースが増えています。マイクロソフトはAzure StackやAzure Arcといったソリューションを提供しており、オンプレミスとクラウドの統合管理を比較的容易に実現できます。AWSでもOutpostsなどハイブリッド環境向けのサービスを拡充しており、企業のニーズに応えつつあります。最終的には、組織の既存資産や必要となる機能、コスト感などを総合的に見極めて選択することが多いでしょう。

学習や資格認定プログラムの充実度

AWS、Azureともに公式のトレーニングプログラムや資格認定制度を用意しており、世界的にニーズの高いエンジニアスキルを証明できるのが特徴です。AWSではAWS Certified Solutions ArchitectやAWS Certified Developer、AWS Certified SysOps Administratorなど、用途別に多様な資格試験が用意されています。Azureも同様に、Azure Administrator AssociateやAzure Solutions Architect Expertなどの資格を提供しており、マイクロソフト学習プラットフォーム(Microsoft Learn)で無料のオンライン学習リソースを提供しています。

どちらのプラットフォームもエコシステムが大きく、コミュニティイベントやオンラインフォーラムが盛んであるため、学習教材や実践ノウハウを得やすい環境が整っています。学習コストは会社やプロジェクトの方針によって変動しますが、一般的にはAWSが先行していた分だけ学習コンテンツは多く、Azureはマイクロソフトの既存顧客を中心に急速に普及しているという印象があります。最終的には自分が参画するプロジェクトでどのクラウドベンダーを使うかに合わせて学習するのが効果的です。

今後のトレンドと選択のポイント

現時点ではAWSがクラウド市場のリーダーといえるものの、Azureはマイクロソフトの強固な顧客基盤を背景に成長を続けており、実際の利用シェアは地域や業界によって大きく異なります。特に、マイクロソフト製品を中心とした企業がクラウド移行を加速させる際、Azureの選択肢が非常に強力になるケースが多いです。また、近年ではコンテナやサーバーレス、マルチクラウドを前提としたアーキテクチャが当たり前になりつつあり、クラウド事業者を単一に限定しない運用戦略も普及してきました。

選択のポイントとしては、次のような質問を自社やチームに投げかけてみると良いでしょう。

  • 既存のオンプレミス環境や業務アプリケーションはどのような構成か(Windows中心か、Linux中心か、ハイブリッドかなど)
  • クラウド上でどのようなワークロードを動かしたいのか(Webアプリケーション、AI/ML、ビッグデータ、IoTなど)
  • マルチクラウドやハイブリッドクラウドを今後検討しているか
  • ライセンス費用の最適化やサポート窓口の一本化を重視するか
  • エンジニアが既に習熟している技術やコミュニティサポートの豊富さはどちらにあるか
  • 運用・保守の自動化やチーム構成を考えた時に、より親和性が高いのはどちらか

これらの点を総合的に評価した上でAWSかAzureか、あるいは両方を使うかを決定するのが望ましいです。単純にシェアや人気度だけで選ぶのではなく、自社の短期・中長期のビジネス要件を踏まえて慎重に検討しましょう。

AWSからAzure、AzureからAWSへの移行は可能か

実際にクラウド導入を進める中で「最初にAWSを導入したが、ある部分だけAzureに移行したい」「逆にAzureで構築したシステムをAWSに移す必要がある」といったケースが発生することがあります。基本的には、クラウド間の直接的な移行ツールやマイグレーション支援サービスは用意されていますが、完全な1対1の対応は難しいことが多いです。サービスの概念や設定項目が異なるため、移行には計画と検証が欠かせません。

AWSとAzureのいずれかで仮想マシン(VM)を運用しているだけであれば、VMイメージを変換するなどの手順で比較的スムーズに移行できる場合もあります。しかし、サーバーレスやマネージドサービス(たとえばAWS LambdaやAzure Functions、DynamoDBやCosmos DBなど)を多用している場合、移行のコストやリスクは高まります。アプリケーション側のコードや設定を大きく変更しなければならないケースがあるためです。

クラウドベンダー依存を下げるためには、コンテナ技術やオープンソースのアプリケーションプラットフォームを積極的に活用し、可能な限りポータビリティを意識したアーキテクチャ設計を行うことが推奨されます。Kubernetes(EKSやAKS)を使っていれば、比較的容易に別クラウドへ移行できる場合もありますし、データベースについてもOSSのものを選定しておくとベンダーロックインのリスクを減らせます。ただし、サービスレベルの機能差を埋めるための追加設計は避けられないことが多い点には注意が必要です。

まとめ:AWS vs Azureの選択に正解はあるのか

本記事では、AWSとAzureの概要や料金体系、サービスの豊富さ、グローバルインフラ、セキュリティ、運用・管理のしやすさ、ユースケースごとの特徴など、多角的な視点から比較ポイントを解説しました。結論としては、どちらも優れたクラウドプラットフォームであり、特定の条件下では一方が優位になる場合はあるものの、一概にどちらが常に優れているとは言い切れないというのが現状です。

選択にあたっては、以下のような視点を総合的に検討することが重要です。

  • 既存システムやライセンス形態:オンプレミスのWindows環境を多用している企業はAzureを選ぶ利点が大きい。一方、Linuxやオープンソース技術を中心に開発してきたチームはAWSに馴染みがあるケースが多い。
  • 組織のクラウド戦略:AWS単一で行くのか、Azure単一で行くのか、マルチクラウドやハイブリッドクラウドを視野に入れるのか。
  • サービスの成熟度や使い勝手:例えば、AI/ML関連やIoT関連サービスなど、細かいところでAWSが先行している場合がある。一方で、Microsoft製品との連携においてはAzureの方がシームレス。
  • コストと割引施策:AWSのリザーブドインスタンスやSavings Plansでの割引、AzureのHybrid Benefitなど、自社の利用形態に合った割引を使いこなせるか。
  • チームのスキルセット:AWSの認定資格保有者が多いか、Azureを使い慣れたエンジニアが多いかで運用のしやすさは変わってくる。

急速にクラウド化が進む現代のIT業界では、AWSとAzureは今後もお互いにサービスを拡充し、競合しながら市場をリードしていくと考えられます。組織としては、いずれか一方を選択するだけでなく、必要に応じて複数のクラウドベンダーを使い分けるマルチクラウド戦略を採用することも珍しくありません。クラウドネイティブなアーキテクチャやコンテナ技術、IaC(Infrastructure as Code)などを活用すれば、AWSとAzureの両方のメリットを最大限に活かすことも十分に可能です。

また、新たにクラウドの検討を始める場合でも、トライアルアカウントや無料枠を活用しつつ、小規模なPoCを実施して実際の運用感をつかむことが大切です。コスト試算を行い、セキュリティとガバナンスに対応した運用モデルを策定し、クラウド移行後の運用負荷やエンジニアの学習コストも考慮した上で、最適なプラットフォームを選択してください。

最終的には、AWSとAzureのどちらを使うにしても、クラウド上でどのような価値を生み出すのかが最も重要なポイントです。サービスの選択や構成を誤ると、ランニングコストが増大したり、セキュリティリスクが高まったり、運用負荷がかさんだりする可能性があります。自社のビジネスゴールと技術要件を明確にし、それに合ったクラウドサービスを最大限に活用することで、アジリティ(俊敏性)とイノベーションを生み出す基盤を築いていきましょう。

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この記事を書いた人

SESで常駐しているサーバーエンジニアの普通の会社員
物理サーバーの導入、仮想基盤サーバーの導入、クラウド環境の導入作業等を設計から行っています。
趣味はゲームと漫画・アニメ
最近の口癖は時間がほしい。
最近はプログラミングもやりたいなぁと思い、独学で少しずつ勉強中。

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